退職金の上手な使い道とは?
成功・失敗例から後悔しない運用方法と注意点を学ぼう

退職金は、退職後の生活を守るための重要な資金です。大きな金額の退職金は、どのように使うのか迷ってしまうものです。本記事では、退職金の上手な使い道を解説します。失敗例と運用方法も紹介するので、参考にしてみてください。
退職金の使い道の成功例

厚生労働省(中央労働委員会)の「令和3年賃金事情等総合調査」によると、定年まで勤めた場合の平均退職金額は大学卒2,230万4,000円、高校卒2,017万6,000円でした。
退職金額は企業規模や勤続年数、業種などにより異なりますが、退職金が将来の重要な資金となることは間違いありません。そこでまずは、退職金の有効な使い道を解説します。
NISAで運用する
インフレが起きると、お金の価値は相対的に下がってしまいます。退職金を預貯金のまま置いておくのではなく、運用してお金の寿命を延ばすことも検討しましょう。運用方法の1つに、NISAがあります。NISA(非課税)口座内の毎月一定金額内で購入した株式や投資信託で得た利益が、非課税になります。
老後は、退職金を取り崩しながら生活していくことになるでしょう。退職金を運用しながら取り崩していけば、資産の寿命を延ばすことが可能です。
65歳から2,000万円を毎月10万円取り崩す場合の資産寿命を比較してみました。運用せずに取り崩した場合と3%・5%で運用しながら取り崩した場合とでは、資産寿命に以下の差が生じます。
資産寿命 | |
---|---|
運用せずに取り崩した場合 | 約17年 |
3%で運用しながら取り崩した場合 | 約23年 |
5%で運用しながら取り崩した場合 | 約36年 |
運用しなかった場合は82歳頃に資産がなくなるのに対し、5%で運用しながら取り崩した場合は約100歳まで取り崩しを続けられます。
貯蓄型保険で老後に備える
貯蓄型保険で運用する方法もあります。貯蓄型保険とは、万が一のときの保障と貯蓄の機能を両方備えた保険です。老後に備えられる貯蓄型保険には、終身保険や個人年金保険、介護保険などがあります。 終身保険は保障が一生涯続き、死亡時に死亡保険金が支払われる保険です。契約後一定期間を過ぎると、払い込んだ保険料より多くの解約返戻金を受け取れる可能性があるため、資産形成にも適しています。
住宅ローンの返済に充てる
住宅ローンを繰上返済すると、利息が減り総返済額を軽減できます。本来支払う予定だった利息が減るため、退職金を住宅ローンの返済に充てるのも手段の1つです。
一方で、まとまった金額で繰上返済すると手元資金が減り、老後の生活を圧迫する可能性があります。また、住宅ローンを完済すると、団体信用生命保険の保障がなくなる点にも注意が必要です。
年金繰り下げ受給中の生活費にする
原則65歳から受給する公的年金は、66歳以降75歳までの間に繰り下げられます。繰り下げた月数ごとに、0.7%(最大84%)年金が増額する仕組みです。
退職金を65歳からの生活費に充てて繰り下げ受給を選択すれば、将来増額された年金を受け取れます。例えば、5年繰り下げて70歳から受け取る場合、42%増額した年金を受給可能です。
退職金の使い道の失敗例

退職金の使い道を間違えると、長い老後生活に充てようと考えていたお金が短期間でなくなってしまう可能性があります。避けるべき使い道を知り、退職金の有効活用に役立ててみてください。
計画せず大きな買い物に使ってしまう
老後の生活費を公的年金だけでまかなうのは難しいため、退職金を取り崩しながら生活していくことになります。
大きな金額の退職金を受け取ると、プランを立てずに趣味や旅行などの大きな買い物に使ってしまう傾向があります。しかし、高額の買い物に使ってしまうと、老後生活が苦しくなりかねません。
厚生労働省の「簡易生命表(令和3年)」によると、日本の平均寿命は男性が81.47歳、女性が87.57歳と長くなっています。安心して老後を迎えるためにも、現在の収支や資産、今後の生活にかかる費用を把握したうえで退職金を使うべきかを考えましょう。
特定の資産に一括投資してしまう
1つの資産に大きな金額を一括投資すると、価格が下落したときに自分の資産が大きく減ってしまうリスクがあります。まとまった金額の退職金をすべて同じ資産に投資するのではなく、複数の投資先に分散して運用しましょう。
値動きは、資産や銘柄、国や地域の状況などによって異なります。そのため、複数の資産や銘柄、地域などに分けて投資し、リスクを軽減することが大切です。
ハイリスクな金融商品に投資する
退職金を、暗号資産(仮想通貨)などのハイリスク・ハイリターンな金融商品に投資するのは避けましょう。暗号資産は、インターネットだけでやりとりされる財産的な価値を持つデータです。ビットコインが代表的な暗号資産として知られています。
ただし、暗号資産は価格変動が大きい傾向にあり、投資金額やタイミングによっては大きな損失を生じるリスクがあります。また、手元資金の何倍もの金額を取引できるFX(外国為替証拠金取引)にも注意が必要です。
退職金は今後の大切な資金となるため、比較的リスクの少ない方法で運用しましょう。リスクを抑えるには、複数の資産や銘柄、地域などに分散投資する考え方が重要です。
退職金の運用方法と注意点

大きな額の退職金を手にすると、自分に合った使い道が分からない人もいるでしょう。退職金の運用方法を決めるためには、必要だと予想される時期に応じ、短期資金・中期資金・長期資金に分けて考えましょう。
短期資金
食費や光熱費、医療費、趣味などの今後すぐに必要となる生活費が該当します。短期資金は投資には回さず、すぐに使えるよう流動性の高い普通預金などに預けておきましょう。病気やケガなどで突然の出費が発生することも踏まえ、数ヶ月分の生活費を用意しておくと安心です。
中期資金
リフォームなどの住宅にかかる費用や定期的な旅行に充てる費用など、数年後に使う予定のある資金です。中期資金は、定期預金や個人向け国債、個人年金保険など安全性の高いもので運用しましょう。個人向け国債は1万円から購入でき、満期時には元本が戻ってくるため安心して保有できます。
長期資金
10年以内に使う予定のない長期資金は、投資信託などでの運用を検討しましょう。
投資信託は、多くの人から集めたお金をまとめて専門家が株式や債券などで運用する商品を指します。そのため、1つの商品を購入すれば資産や地域などを分散させることが可能です。NISAを活用すれば運用益が非課税になる優遇も受けられます。
まとめ
退職金は、老後の生活費や介護、住宅費などをまかなうための重要な資金です。安易に使うことは避け、現在の収支や資産、今後の生活に必要な費用を把握したうえで使い道をじっくり検討しましょう。
退職金の使い道を決める際には、目的や必要な時期に応じた方法で運用する考え方が大切です。

大学卒業後、金融機関にて個人営業を担当し、資産運用の相談・保険販売などに従事。退社後、CFP認定を取得し、フリーライターとして活動。現在はクレジットカード・カードローン・保険・税金・不動産などに関する記事の執筆・監修を行う。これまでに執筆した記事は700本を超える。