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物価変動で年金支給額は変わる?
インフレによる影響などわかりやすく解説

2023/08/08
(提供元:CyberKnot

物価の上昇が続いてインフレになれば、お金の価値が下がります。もし年金の額が変わらなければ、生活が苦しくなってしまうでしょう。物価が上昇したら、年金支給額も増えるのでしょうか?今回は、物価変動と年金支給額の関係について説明します。

物価が上がると年金支給額は増える?

65歳になったら、公的年金を受給できます。もし物価が上がっても年金額が変わらなければ、年金は実質的に目減りしてしまいます。まずは、物価の上昇が年金額に与える影響について知っておきましょう。

物価や賃金の上昇が年金に与える影響

公的年金の額は、ずっと一定ではありません。賃金や物価の変動率を基準として、毎年4月に改定される仕組みになっています。

賃金が上がれば年金額も上がる

公的年金制度では、現役世代の納める保険料が年金生活者への給付に充てられます。そのため、現役世代の賃金が上がれば、年金額も引き上げになります。

物価が上がると年金額も引き上げられる

公的年金は、物価上昇の影響も受けます。物価が上がれば年金支給額も上がります。インフレでお金の価値が下がっても、年金が大きく目減りしてしまうことはありません。

年金制度を維持するための調整も行われている

現在の日本は、少子高齢化が進んでいる状況です。物価や賃金の上昇をそのまま年金額に反映すると、将来の現役世代の負担が大きくなってしまいます。年金制度の維持を目的として、年金改定率を調整する仕組みも設けられています。

インフレでも年金上昇は抑えられる

年金額を調整する仕組みが「マクロ経済スライド」と呼ばれています。マクロ経済スライドは、2004年の年金制度改正の際に導入されました。

現役世代の保険料負担を考慮

マクロ経済スライドが導入されたことにより、インフレ時でも物価の上昇幅ほど年金額は上がりません。現役世代が保険料を納められないと、年金制度は維持できません。年金受給者への給付水準を維持しながら、将来の現役世代の保険料負担が大きくなり過ぎないように工夫されているのです。

年金支給額を調整する「マクロ経済スライド」とは?

マクロ経済スライドでは、スライド調整率を用いて年金額を調整します。年金改定率を決めるときには、物価上昇率からスライド調整率を差し引くことになっています。

  • 年金改定率=物価上昇率-スライド調整率

スライド調整率は、以下の計算式で算出します。

  • スライド調整率=「公的年金全体の被保険者の減少率の実績」+「平均余命の伸びを勘案した一定率(0.3%)」

上の計算式からわかるように、スライド調整率は被保険者数の減少の影響を受けます。2025年までのスライド調整率は、平均0.9%程度と推計されています。 なお、マクロ経済スライドを適用するときには、スライド調整率と物価上昇率の大小により、以下のとおり扱いが分かれます。

物価上昇率が大きい場合

物価上昇率がスライド調整率より大きい場合には、マクロ経済スライドをそのまま適用して年金額改定を行います。 たとえば、物価上昇率2.0%のときには以下の計算となり、年金額は1.1%上昇します。

  • 年金改定率=物価上昇率(2.0%)-スライド調整率(0.9%)=1.1%

物価上昇率が小さい場合

物価上昇率がスライド調整率よりも小さい場合、マクロ経済スライドを適用すると、年金改定率がマイナスになってしまいます。この場合、年金改定率は0%となり、前年と同額の支給となります。 なお、スライド調整率適用後の年金改定率の下限値を0%とする措置のことを「名目下限措置」と言います。

キャリーオーバー制度の導入

マクロ経済スライドについては、2018年よりキャリーオーバー制度が設けられています。これは、名目下限措置により適用できなかったマクロ経済スライドの未調整分を、翌年以降に繰り越すものです。 キャリーオーバー制度の導入により、賃金や物価にもとづき算出された改定率がプラスになる年には、マクロ経済スライドの未調整分をあてはめた調整が行われます。物価が高騰しても、過去のキャリーオーバーがあれば、年金はそれほど増えないということです。

物価が下落した場合

物価の伸びがマイナスの場合、すなわち物価が下落した場合には、マクロ経済による調整は行われません。物価が下落した分、年金支給額が引き下げられます。

令和5年度の年金額改定は?

年金額改定では、名目手取り賃金変動率が物価変動率を上回る場合、既裁定者(68歳以上の人)と新規裁定者(67歳以下の人)で異なる扱いをするルールがあります。既裁定者の場合には物価変動率を使い、新規裁定者については名目手取り賃金変動率を使って年金額を改定します。 名目手取り賃金変動率とは、実質的な賃金の変動率を表す指標です。2~4年度前の3年度の平均実質賃金変動率、前年の物価変動率、可処分所得割合変化率を用いて計算します。

名目手取り賃金変動率=実質賃金変動率+物価変動率+可処分所得割合変化率

2023年度は、名目手取り賃金変動率(2.8%)が物価変動率(2.5%)を上回っています。そのため、新規裁定者と既裁定者で年金額が異なります。

3年ぶりにマクロ経済スライドが発動

2021年度と2022年度は名目下限措置に該当し、マクロ経済スライドによる調整が行われませんでした。2023年度には3年ぶりにマクロ経済スライドが発動し、次の指標をもとに年金額改定が行われています。

物価変動率
2.5%
名目手取り賃金変動率
2.8%
マクロ経済スライドによるスライド調整率
▲0.3%
前年度までのマクロ経済スライドの未調整分
▲0.3%

新規裁定者の年金額改定

新規裁定者については、名目手取り賃金変動率(2.8%)を用いて改定率を出します。

  • 新規裁定者の年金額改定率=名目手取り賃金変動率(2.8%)-スライド調整率(0.3%)-未調整分(0.3%)=2.2%

新規裁定者の年金額は、2.2%引き上げになっています。

既裁定者の年金額改定

既裁定者については、物価変動率(2.5%)を用いて改定率を出します。

  • 既裁定者の年金額改定率=物価変動率(2.5%)-スライド調整率(0.3%)-未調整分(0.3%)=1.9%

既裁定者の年金額は、1.9%引き上げになっています。

令和5年度の「モデル年金」

2023年度の年金額改定により、国民年金(老齢基礎年金)の満額は79万5000円となっています。厚生労働省が公表しているモデル年金(月額)は、次のとおりです。

令和5年度の月額
前年比
国民年金
(1人分の満額)
6万6250円 +1434円
厚生年金
(夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額)
22万4482円 +4889円

出典:厚生労働省「令和5年度年金額改定

まとめ

公的年金の額は、物価変動の影響を受けます。ただし、物価が高騰しても、年金額は思ったほど増えません。年金制度を維持するため、マクロ経済スライドによる調整も行われるからです。年金額が引き上げられても物価上昇には追い付かないことを知っておき、老後のマネープランを考えましょう。



著者プロフィール

著者 森本 由紀

AFP(日本FP協会認定)、行政書士、夫婦カウンセラー

大学卒業後、複数の法律事務所に勤務。30代で結婚、出産した後、5年間の専業主婦経験を経て仕事復帰。現在はAFP、行政書士、夫婦カウンセラーとして活動中。夫婦問題に悩む幅広い世代の男女にカウンセリングを行っており、離婚を考える人には手続きのサポート、生活設計や子育てについてのアドバイス、自分らしい生き方を見つけるコーチングを行っている。

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