年金保険料が払えないとどうなる?
免除になる制度や利用方法を解説
個人事業主や学生といった国民年金第1号被保険者は、自分で保険料を納付しなければなりません。年金保険料が払えない場合、どうすればよいのでしょうか。また、滞納するとどうなるのでしょうか。今回は国民年金保険料の滞納による不利益と、払えないときの免除・猶予制度について解説します。
国民年金保険料を払わないとどうなる?
まずは、国民年金の保険料を支払わないと、どのような不利益があるのかを解説します。
滞納を続けると差し押さえの可能性がある
国民年金の保険料の滞納を続けると、差し押さえを受けるおそれがあります。ただし、保険料の未納でただちに差し押さえられるわけではなく、一般的には以下のような流れとなります。
1. 電話や書面による催告
2. 国民年金未納保険料納付勧奨通知書(催告状)による催告
3. 最終催告状による催告
4. 督促状の送付(指定期限までに支払わないと延滞金が発生 )
5. 差し押さえの実行
差し押さえの実施はコロナ禍の2020年、2021年はほとんど行われていませんでしたが、2019年までは年々増加していました。2022年には、約1万3,000件の差し押さえが実施されています。
参考:日本年金機構「日本年金機構の平成30年度 業務実績の評価」・厚生労働省「公的年金制度全体の状況・国民年金保険料収納対策について」「令和4年度の国民年金の加入・保険料納付状況を公表します」
将来受け取る年金が減る・なくなる
国民年金保険料の未納がある人は将来受け取れる年金が減るか、もしくは受け取れなくなる場合があります。老齢基礎年金の受給額は、保険料納付月数によって決まるためです。また、受給資格期間(保険料を納めた期間や免除された期間の合計)が10年未満の人は、老齢年金を受け取れません。
2023年度の老齢基礎年金の満額(67歳以下の場合)は79万5,000円です。たとえば、2年間の未納がある人の受給額は、75万5,250円(79万5,000円×456月÷480月) となります。
いざというときに遺族年金や障害年金が受け取れない
公的年金には被保険者の死亡時に遺族が受け取る遺族年金と、病気やけがで一定の障害状態になったときに受け取る障害年金があります。保険料の未納の影響は遺族年金や障害年金にも及び、万が一のときに受け取れない可能性があります。どちらも保険料の納付要件を満たさなければ、受け取れないためです。
遺族基礎年金・障害基礎年金の年金額は老齢基礎年金と違い、支払った保険料によって決まる仕組みではありません。よって、受給要件を満たした人は所定の年金額を受け取れます。
遺族年金・障害年金の保険料納付要件
遺族年金と障害年金の保険料納付の要件は以下のとおりです。
遺族年金(右記のいずれかを満たすこと) | ・死亡日前日時点で保険料納付済期間と保険料免除期間を合わせた期間が、国民年金加入期間の3分の2以上 ・亡くなった人が65歳未満であれば死亡日が2026年3月末日までの場合、死亡日前日時点で死亡した月の前々月までの1年間保険料の未納がないこと |
障害年金(右記のいずれかを満たすこと) | ・初診日前日時点で保険料納付済期間と保険料免除期間を合わせた期間が、初診日のある月の前々月までの国民年金加入期間の3分の2以上 ・初診日に65歳未満であれば初診日が2026年3月末日までの場合、初診日前日時点で初診日の月の前々月までの1年間保険料の未納がないこと |
国民年金保険料を払えないときはどうすればいい?
経済的な理由で国民年金の保険料を払えない場合、保険料の納付を免除または猶予してもらえる制度があります。
国民年金保険料の免除
国民年金保険料の納付が経済的に困難な人は、申請して承認されると保険料の納付が免除になります。免除される額の種類は、全額、4分の3、半額、4分の1の4つです。免除の手続きをすると基礎年金の受給資格期間に算入され、年金額へ反映されます。保険料免除の所得基準と年金額は、以下のとおりです。
免除の種類 | 前年所得の上限 | 年金額(保険料を全額納付した場合と比べた割合) |
全額免除 | (扶養親族等の数+1)×35万円+32万円 | 2分の1 |
4分の3免除 | 88万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 | 8分の5 |
半額免除 | 128万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 | 8分の6 |
4分の1免除 | 168万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 | 8分の7 |
出典:日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度 」より筆者作成
国民年金保険料の猶予
免除ではなく、国民年金保険料の納付を猶予してもらう制度もあります。納付猶予の手続きをすると、基礎年金の受給資格期間に算入されますが年金額へ反映はないため、保険料の追納が必要です。
納付猶予制度
20歳から50歳未満で前年所得が「(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円」以下の場合には、申請により保険料の納付が猶予されます。
学生納付特例制度
前年所得が「128万円+扶養親族等の数×38万円+社会保険料控除等」以下の学生は、申請により国民年金保険料の納付猶予を受けられます。
免除・猶予の手続き
免除・猶予の手続きは、住所地の市区町村窓口または年金事務所で行います。学生納付特例については、在学中の学校等が学生納付特例の代行事務を行う許認可を受けている場合は、学校等で手続きできます。
また、マイナポータルを開設している人は、電子申請が可能です。
国民年金保険料を後から納める方法
保険料の免除・納付猶予を受けた期間の国民年金保険料は、後から納付できます。保険料を後から納めることで、免除や猶予によって減額される年金額を増やせます。
保険料の追納制度
追納は、保険料の納付を免除や猶予(学生納付特例も含む)された期間の未納の保険料を納められる制度です。追納が可能なのは、追納が承認された月の前10年以内の免除等期間です。
免除や猶予の承認を受けた翌年度から起算し、3年度目以降に追納する場合は経過期間に応じた加算額が上乗せされます。また、追納した保険料は社会保険料控除の対象になります。
追納を行うタイミング
追納を免除や猶予の3年度目以降に行う場合、遅延利息に相当する加算額がかかります。早めの追納が無難ですが、社会保険料控除のメリットを活かすには収入の高い時期に行うほうが効果的です。
そのため、学生納付特例を受けた人が追納する場合、就職してすぐよりも数年後のほうが有利なことも考えられます。追納の期限内で最も有利なタイミングを狙うとよいでしょう。
国民年金の任意加入
保険料の免除や猶予のために老齢基礎年金を満額受給できない人が年金額の増額を希望する場合、60歳以降でも国民年金に任意加入できます。任意加入できるのは、以下のような人です。
● 日本国内に住所がある60歳から65歳までの人
● 老齢基礎年金の繰上げ受給をしていない人
● 60歳までの保険料の納付月数が480月未満の人
● 厚生年金、共済組合に加入していない人
まとめ
国民年金の保険料を滞納すると、差し押さえの他にいざというときに必要な給付を受けられなくなるリスクがあります。催告などを受ける前に速やかに納付しましょう。保険料の支払いが難しい場合、免除や猶予について年金事務所に相談するとよいでしょう。
国内生保で法人コンサルティング営業を経て2007年に独立系FPとして開業。企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在は法人向けには確定拠出年金の導入コンサル、個人向けにはiDeCoやNISAでの資産運用や確定拠出年金を有効活用したライフプランニング、リタイアメントプランニングを行っている。