iDeCoで所得控除されるのはなぜ?
対象になる税金とその仕組みを紹介

iDeCoは掛金全額の所得控除を受けながら、老後資金の準備ができる制度です。掛金の所得控除の恩恵は、所得や掛金額が多い人ほど大きくなります。この記事ではiDeCoの税の優遇を解説し、実際に所得控除による税の軽減額を試算することでいくら節税になるかを見ていきます。
iDeCoの3つの税の優遇とは?

iDeCoは私的な年金制度で、加入者が自分で掛金を運用する仕組みです。iDeCoには積み立て時、運用時、受け取り時の3つの段階で税の優遇があります。
iDeCoにこのような税のメリットがあるのは、iDeCo加入者の税負担を軽減することで老後資金の準備を支援するためです。
掛金が全額所得控除
iDeCoで積み立てた掛金は全額が所得控除の対象となり、掛金分だけ所得が減るため所得税と住民税が軽減されます。たとえば、年収500万円の会社員が年間24万円(月2万円)の掛金を積み立てた場合、所得税と住民税で1年間に約5万円の節税効果を期待できます。iDeCoの運用の成果は確実ではありませんが、税負担の軽減は必ず得られるメリットです。
運用益は非課税で再投資
iDeCoで選んだ運用商品から得られる利益に税金はかからず、再投資されます。再投資とは、同じ運用商品を買い付けることです。投資信託などを運用すると利益に課税されますが(源泉分離課税20.315%)、iDeCoなら非課税です。運用益を再投資すると投資の元本が増え、得られる利益も増えます。さらに運用益に課税されないため、資産が増えやすくなるのです。
なお、iDeCoの積立金は特別法人税の対象ですが、現在は課税が停止されています。
受け取り時も所得控除の対象に
iDeCoの受け取り時には一時金か年金かを選択でき、一時金と年金の併用を選べる金融機関もあります。一時金を選んだ場合は退職所得控除、年金で受け取る場合は公的年金等控除の対象になります。
iDeCoの所得控除でいくら税の負担が軽くなる?

iDeCoは掛金が全額所得控除の対象になるため、税負担を大幅に軽減できます。この税の効果は、所得が高い人ほど大きくなります。iDeCoの掛金によって税負担がどの程度軽くなるか試算してみましょう。
課税所得別の節税効果をシミュレーション
以下は、iDeCoで毎月掛金を2万3,000円(年間27万6,000円)ずつ積み立てた場合の、所得税と住民税の節税額をまとめた表です。なお、復興特別所得税は考慮していません。
課税所得金額 | 税率(所得税+住民税) | 節税額 |
195万円未満 | 15% | 4万1,400円 |
195万円以上330万円未満 | 20% | 5万5,200円 |
330万円以上695万円未満 | 30% | 8万2,800円 |
695万円以上900万円未満 | 33% | 9万1,080円 |
900万円以上1,800万円未満 | 43% | 11万8,680円 |
1,800万円以上4,000万円未満 | 50% | 13万8,000円 |
4,000万円以上 | 55% | 15万1,800円 |
筆者作成
上記の表から、同じ掛金額でも節税効果に差のあることがわかります。毎月の掛金額が2万3,000円の場合、課税所得金額が195万円未満と4,000万円以上の人では年間で10万円以上の差となりました。このように、iDeCoは収入の高い人ほど税の恩恵を受けやすい仕組みです。
掛金上限による節税効果をシミュレーション
iDeCoの掛金は国民年金の被保険者区分と、勤務先の企業年金の加入の有無によって上限額が以下のように決められています。
加入資格 | 掛金上限額※ | |
第1号被保険者 | 自営業者等 | 月額6万8,000円 (年額81万6,000円) |
第2号被保険者 | 会社員(企業年金なし) | 月額2万3,000円 (年額27万6,000円) |
会社員(確定拠出年金あり) | 月額2万円 (年額24万円) | |
会社員(確定拠出年金と確定給付年金あり) 会社員(確定給付年金あり) 公務員 |
月額1万2,000円※ (年額14万4,000円) | |
第3号被保険者 | 専業主婦(夫) | 月額2万3,000円 (年額27万6,000円) |
筆者作成
※ 2024年(令和6年)12月から、公務員または確定給付年金のある会社に勤務する人のiDeCoの掛金上限額が2万円に引き上げられます。ただし、企業年金の実施状況により掛金上限額が異なる場合がありますので、詳細は国民年金基金連合会「iDeCo公式サイト」をご確認ください。
※ なお、第1号被保険者は国民年金の付加保険料、国民年金基金の掛金と合算して月額6万8,000円を超えない額までとなります。
掛金上限別の節税額
以下は、課税所得金額500万円(所得税20%+住民税10%)の人がiDeCoで毎月掛金を上限まで積み立てた場合の、所得税と住民税の節税額をまとめた表です(復興特別所得税は考慮せず)。
掛金額(年額) | 節税額 |
81万6,000円 | 24万4,800円 |
27万6,000円 | 8万2,800円 |
24万円 | 7万2,000円 |
14万4,000円 | 4万3,200円 |
筆者作成
iDeCoの掛金が所得控除になるメリットは、掛金額が多いほど大きくなります。自営業者等の第1号被保険者は国民年金に厚生年金の上乗せがなく、老後資金準備の必要性が高いといえます。そのため、掛金上限も大きく設定されており、節税しながらの老後資金準備が可能です。
iDeCoの所得控除を受ける手続き

iDeCoの所得控除の適用を受けるには、所定の手続きが必要です。加入して掛金を支払っているだけでは、控除を受けられない点に注意しましょう。ここでは、会社員・公務員の年末調整と、自営業者・フリーランスの確定申告について解説します。
会社員・公務員は年末調整で
iDeCoに加入している会社員・公務員は、勤務先での年末調整で所得控除を申告します。
年末調整は、以下の手順で行います。
年末調整の手順
- 「小規模企業共済等掛金払込証明書」を保管する
- 「給与所得者の保険料控除申告書」に必要事項を記入する
- 「小規模企業共済等掛金払込証明書」と「給与所得者の保険料控除申告書」を勤務先に提出する
「小規模企業共済等掛金払込証明書」は国民年金基金連合会から送付されるiDeCoの掛金の控除証明書で、通常は毎年10月下旬に発送されます。
なお、掛金の支払いを事業主払込(給与天引き)にしている人は、年末調整でiDeCoの所得控除の手続きは必要ありません。
自営業者・フリーランスは確定申告で
自営業者やフリーランスは、確定申告によってiDeCoの所得控除の適用を受けます。会社員でも「小規模企業共済等掛金払込証明書」が年末調整期間中に届かない場合、確定申告が必要です。
確定申告は、以下の手順で行います。
確定申告の手順
- 「小規模企業共済等掛金払込証明書」を保管する
- 「確定申告書」に必要事項を記入する
- 「小規模企業共済等掛金払込証明書」と「確定申告書」を税務署に提出する
「小規模企業共済等掛金払込証明書」は、先述した会社員・公務員と同様の要領で確定申告期間まで保管します。「確定申告書」は手書きもできますが、国税庁Webサイトの「確定申告書作成コーナー」を利用すると簡単に作成できます。確定申告書作成コーナーを利用すると電子申告もでき、払込証明書の添付が省略可能です。ただし、払込証明書は5年間保管しておかなければなりません。
まとめ
iDeCoの掛金拠出時の所得控除はNISAにもない優遇措置で、無理のない範囲で利用したい制度です。また、所得控除の適用には年末調整や確定申告の手続きが必要です。国民年金基金連合会から送られてくる証明書は、なくさないように保管しておきましょう。年末調整でiDeCoの申告を忘れた人は、確定申告で手続きできます。難しい手続きではないので、忘れずに申告しましょう。

国内生保で法人コンサルティング営業を経て2007年に独立系FPとして開業。企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在は法人向けには確定拠出年金の導入コンサル、個人向けにはiDeCoやNISAでの資産運用や確定拠出年金を有効活用したライフプランニング、リタイアメントプランニングを行っている。