ベーシックインカムが日本で導入される可能性は?
制度の仕組みやメリットを紹介
ベーシックインカムとは、全ての国民に定期的に現金を支給する仕組みです。世界を見ると実験的に導入している国や地域があり、日本でも話題に上がることがあります。この記事では、ベーシックインカムの仕組みやメリット、課題について解説します。
ベーシックインカムとは?
まずは、ベーシックインカムとはどのような制度なのか、具体的に解説します。
ベーシックインカムは定期的な現金支給
ベーシックインカムとは、国や自治体が住民一人ひとりに対して一定額の現金を定期的に支給する制度のことです。従来の社会保障制度とは異なり、個々の所得や資産に関わらず無条件で一定額が支給される点が特徴です。
ペーシックインカムの制度設計(支給額や支給方法)には、さまざまな案があります。一般的には、18歳以上の全ての国民に対し、最低生活費を下回らない程度の現金が定期的に支給されることを想定しています。
ベーシックインカムの目的は、国民の最低限の生活を保障し、貧困に陥るリスクを軽減することです。一方で、導入には多額の財源が必要となるため、実現に向けてはさまざまな課題が残されています。
ベーシックインカムを導入している国
ベーシックインカムを正式に導入している国はありません。しかし、一部の地域や所得層に対して、定期的に一定額を支給する制度を試験的に導入した国は多くあります。
たとえば、フィンランドでは2017年から2018年にかけて、失業手当受給者25歳から58歳までの約24万人から2,000人を選び、失業手当と同額を給付する実験を行いました。フィンランドでは1970年代から議論されており、さまざまな議論や実験を通して、新たな実験を検討しています。
また、イランでは2011年から6年間に渡り、ベーシックインカムを実験導入しました。平均年収の29%にあたる約178万円を支給し、社会的変化を調査しています。このほか、アメリカのアラスカ州やブラジル、インドのマドヤ・パラデシュ州などでも行われています。
参考元:国立社会保障・人口問題研究所「フィンランドにおける「ベーシックインカム」実験:概要と展望」
参考元:香川大学・中原 聡志氏「社会保障におけるベーシック・インカムの重要性」
ベーシックインカムのメリットと課題
ベーシックインカムには、メリットと課題があります。ベーシックインカムの特性を通して、ベーシックインカムが日本に導入できるかどうか考えていきましょう。
ベーシックインカムのメリット
ベーシックインカムは所得に関わらず一定額が支給されるため、国民の最低限の生活を支援できます。貧困に陥るリスクを抑えられ、最低限の生活水準が一定程度確保できると期待されているのです。
現行の社会保障制度は所得に連動しており、制度ごとに基準を設けて審査する必要があります。ベーシックインカムであれば制度が簡素化され、事務コストを大幅に削減できる可能性があります。社会保障制度からベーシックインカムに移行できれば、行政の効率化・簡素化を図れるでしょう。
また、ベーシックインカムの支給により、国民一人ひとりの働き方の選択肢が広がります。生計の心配が減少するため、フルタイムで働くか短時間勤務にするか、起業するか、ボランティア活動に専念するかなど、多様な社会参加の形を選べるようになるでしょう。
ベーシックインカムの課題
ベーシックインカムには多くの課題があります。日本で導入できるかどうかは、この課題を解決できるかどうかによるでしょう。ここでは課題を3つに分けて紹介します。
多額の財源確保が必要
全ての国民に対して定期的に現金を支給するため、巨額な財源を確保しなければなりません。単に現行の社会保障費を振り替えるだけでなく、増税などによる新たな財源確保策が必要となる可能性があります。その際には、負担増への国民の反発が予想されます。
既存の社会保障制度との調整
ベーシックインカムと既存の年金、生活保護、児童手当などの社会保障制度の関係を整理する必要があります。二重給付による不公平な制度が生まれたり、すでに年金や生活保護を受給している層が反発したりする可能性があります。ベーシックインカムを正しく理解するための、丁寧な制度設計と国民への周知が重要です。
労働意欲減退の懸念
無条件で一定額が支給されることで、国民の労働意欲が低下してしまうのではないかという懸念があります。一方で、ベーシックインカムによる導入で国民に余裕が生まれ、新しい働き方を支援できるという見方もあり、議論が分かれるところです。
日本での導入に際してはこれらの課題に加え、超高齢化社会への影響といった日本固有の事情も発生すると考えられます。社会保障制度の大きな改革には、国民的な合意形成が必要不可欠です。ベーシックインカム導入するためには、制度変更の是非や具体的な制度設計など多くの課題を解決しなければなりません。
日本でベーシックインカムを導入する可能性
日本でよく話題になる年金制度や医療保険制度について、ベーシックインカムとの関係性を整理する必要があります。たとえば、毎月の年金受給額とベーシックインカムの支給額の合計を最低20万円とし、満たなければベーシックインカムからの支給額で調整します。また、医療保険の自己負担割合を一律3割にして、健康保険料の徴収はしないという仕組みを構築します。
地域間の格差も日本における課題のひとつです。物価や最低賃金など地域によって差があるため、ベーシックインカムで支給する金額に調整率をかけて算出するなどの制度が必要になります。逆に、支給額は全国一律にして、税金などで調整することもできます。
また、世代間の公平性についても配慮する必要があります。現役で働いている世代と新入社員、未就業者、年金受給者などで、ベーシックインカム導入による影響は異なります。低所得者や高齢者に対しては、特別給付金や税制優遇による調整で世代間格差を緩和します。
これらの課題と対策には、財源はもちろん、ベーシックインカムの意義や重要性について、国民の理解が必要です。ベーシックインカム導入の支持が増え、ある程度のデメリットを許容できるのであれば、日本で導入される可能性は高まるでしょう。
まとめ
ベーシックインカムは国民の最低限の生活を保障できる一方、制度を安定させる財源確保や現行の社会保障制度との調整などの課題もあります。日本で導入するのは簡単ではありませんが、さまざまな課題を解決できれば、話が一気に進むかもしれません。
ベーシックインカムが導入されれば、より自由な働き方を選択できるでしょう。将来の選択肢を考えるきっかけとして、ベーシックインカムの今後の動きに注目しておくのがおすすめです。
2006年2月にファイナンシャルプランナー(FP)として独立、個人相談をはじめ、カルチャーセンター講師やFP資格講師・教材作成、サイト運営・執筆など、FPに関する業務に携わり15年以上経つ。商品販売をしない中立公正な立場で、相談者の夢や希望をお伺いし、ライフプランをもとにした住宅ローンや保険などの選び方や家計の見直しを得意とする。執筆でも、わかりやすく伝えることはもちろん、情報を精査し、消費者・生活者側の目線で書くことにこだわる。