企業型確定拠出年金にはデメリットしかない?
メリットや上手な活用法もあわせて解説

企業型確定拠出年金は「デメリットしかないのでは?」と不安視されることもありますが、制度を正しく理解すれば、老後資金の形成に大いに役立てることができます。本記事では、企業型確定拠出年金の仕組みや注意点、メリット・デメリット、上手な活用法などを解説します。
企業型確定拠出年金とは?

企業型確定拠出年金とは、企業が従業員のために掛金を拠出し、従業員自らが運用商品を選択して老後資産を形成する制度です。これは確定拠出年金(DC)と呼ばれる制度の一種で、国が用意する公的年金に加え、企業が福利厚生の一環として導入しています。
従業員にとっては、企業が掛金を支払ってくれる点は大きなメリットといえます。しかし、運用の成果によって将来受け取る年金額が変動するため、投資の知識が乏しい人にとっては不安に感じることもあるでしょう。
通常型DCと選択制DCの違い
企業型確定拠出年金には通常型と選択制の2つの形式があります。それぞれの大きな違いは、以下のとおりです。
通常型DCと選択制DCの違い
- 通常型DC:企業が掛金を全額拠出し、従業員は自ら運用商品を選ぶ形式。掛金は給与とは別枠で支給されるため、給与や厚生年金に影響はない。
- 選択制DC:給与の一部を掛金として従業員が拠出する形式。掛金に回した分だけ課税対象の給与が減るため、節税効果がある一方で、将来の厚生年金額が減る可能性がある。
選択制DCを導入している場合、給与の一部を掛金に振り替えるため、短期的には所得税・住民税の負担が軽くなる一方で、給与が減ることで厚生年金の算定に影響が出る点には注意が必要です。
選択制DCを利用する際は、拠出額が将来の公的年金額や生活設計に与える影響を考え、自分にとって適しているかを慎重に検討しましょう。
企業型確定拠出年金はデメリットしかない?6つの注意点

企業型確定拠出年金はよく、「デメリットしかない」といわれることがあります。
ここでは、企業型確定拠出年金をスタートさせる前に知っておきたい、デメリットしかないといわれる理由と注意点を紹介します。
原則60歳まで引き出せない
企業型確定拠出年金の最大のデメリットともいえるのが、積み立てたお金は原則60歳まで引き出せない点です。
病気やケガ、転職などでまとまった資金が必要になっても、原則として中途引き出しはできません。急な出費に対応できない点に注意が必要です。
元本割れのリスクがある
企業型確定拠出年金の運用先によっては、元本割れのリスクがあります。
投資信託や株式など、リスクの高い商品で運用した場合、運用次第では拠出した金額よりも資産が目減りする可能性があります。そのため、一定の金融知識が求められる点は初心者にとってはデメリットに感じるでしょう。
各種手数料を負担しなければならない
企業型確定拠出年金を運用するうえで意外と見落としがちなのが、手数料です。
企業型確定拠出年金では、信託報酬、口座維持手数料、運営管理手数料などが継続的に発生します。これらの手数料は企業が負担する場合もありますが、特に選択制DCでは従業員側が手数料を負担するケースもあり、実質的な負担となってしまうのがデメリットです。
自分で運営機関を指定できない
企業型確定拠出年金では、企業が選定した運営管理機関を利用するため、加入者が金融機関自体を選ぶことはできません。このため、自分で運営機関を指定・変更したい方にとってはデメリットとなるでしょう。
将来の公的年金が減る可能性がある
選択制DCでは給与の一部を掛金として拠出するため、厚生年金の計算に用いる標準報酬月額が低くなり、将来の年金額が本来より少なくなる可能性があります。
課税所得が減るのは短期的には節税になりますが、長期的には公的年金という安定した収入が減る可能性があります。
退職や転職の際に手続きが必要
企業型確定拠出年金は、退職や転職の際に手続きが必要です。
資産の移換手続きをしないと、企業型確定拠出年金のまま放置すると、手数料が差し引かれ続けるというケースに陥る可能性があります。
大切な資産が目減りしないように、退職時や転職時は企業型確定拠出年金に関する手続きも忘れずにおこなうようにしましょう。
企業型確定拠出年金の3つのメリットもチェック

企業型確定拠出年金には、もちろんメリットもあります。
メリットとデメリットの両方を理解して上手に活用すれば、老後の資産形成を進めやすくなるでしょう。
各種税制優遇を受けられる
企業型確定拠出年金では、掛金は給与と別枠で支給されるため非課税となり、所得税や住民税の負担が軽くなります。
さらに、運用で得た利益も非課税で再投資できるため、長期運用による複利効果が得られやすいのが大きなメリットです。
口座管理手数料は企業負担
企業型確定拠出年金では、企業が掛金や一部の運営管理費用を負担するケースが多く、従業員は口座管理手数料などの負担を抑えられます。ただし、投資信託などの運用商品の信託報酬は、加入者負担が一般的です。
企業が基本的な手数料を負担するため、比較的低コストで運用しやすいのがメリットの一つです。
退職・転職時に資産を持ち運べる
退職や転職の際、資産をiDeCoや新たな企業型確定拠出年金に移換できるのもメリットの一つです。
一部の確定給付年金と違い、資産の持ち運びができるので、今後退職や転職を見据えている方にも活用しやすい仕組みといえるでしょう。
企業型確定拠出年金のデメリットを回避するコツ

デメリットしかないといわれることも多い企業型確定拠出年金ですが、あらかじめ回避策を理解しておけば、上手に資産形成に役立てることが可能です。
長期・分散投資でリスクを減らす
運用に不安がある人は、インデックス型の投資信託など、リスクを抑えた商品を選ぶのがおすすめです。また、長期で運用すれば複利効果も大きくなるため、短期的な値動きに振り回されにくくなります。
年齢に応じて投資先を入れ替える
年齢に応じて投資配分を見直すのも、元本割れを防ぐためにおすすめの方法です。
例えば、若い時期はリターンの大きい株式中心の運用にして、年齢を重ねるごとに債券や元本保証型の商品にシフトしていけば、バランスのいい資産運用ができるでしょう。
税負担が少ない受け取り方を選ぶ
企業型確定拠出年金は、受け取り方によって税金のかかり方が異なります。まとめて一時金として受け取る場合は退職所得控除が使えるため、大きな節税になります。
年金のように分割で受け取る場合は雑所得として課税されますが、公的年金等控除などを使えば一定額までは非課税となるため、年金受取でも節税効果があります。
企業型確定拠出年金と他の年金の違い

年金は企業型確定拠出年金のほかにも多数あります。他の年金と企業型確定拠出年金はどう違うのか、それぞれのメリットとデメリットとともにチェックしていきましょう。
厚生年金のメリットとデメリット
厚生年金は、老後に一生涯受け取れる公的年金で、国民年金より受給額が多いのが特徴です。保険料は会社と折半のため自己負担が抑えられ、遺族年金や障害年金も含まれます。
ただし、現役時の手取りが減るほか、将来の年金額は制度変更の影響を受ける点が大きなデメリットです。
個人型確定拠出年金(iDeCo)のメリットとデメリット
iDeCoは、自営業者や非正規社員も加入でき、掛金や運用商品を自由に選べる個人型の私的年金制度です。掛金は全額所得控除の対象となるため、節税効果があります。
ただし、掛金は自己負担で、口座管理などの手数料もかかる点には注意が必要です。
確定給付企業年金(DB)のメリットとデメリット
確定給付企業年金(DB)は将来の年金額が事前に確定しているため、老後資金の見通しが立てやすいというメリットがあります。
一方で、企業の財務に依存した制度なので、企業が破綻するリスクや見直しの可能性がある点には注意が必要です。
まとめ
企業型確定拠出年金は、デメリットしかないといわれることもありますが、使い方次第では賢く資産形成ができる制度です。制度の特徴をよく理解し、正しく運用すれば、老後の不安を軽減できるでしょう。
企業型確定拠出年金を活用する際は、メリット・デメリットの両方を冷静に理解し、自分に合った形で活用していくことが大切です。

広告代理店勤務を経て、フリーライターとして6年以上活動。自身の投資経験をきっかけにFP資格を取得。投資・金融・不動産・ビジネス関連の記事を多数執筆。現在はフリーランスの働き方・生き方に関する情報も発信中。