積極財政とは?
政策の仕組みをわかりやすく解説
物価高が続く中で、政府の財政政策への関心が高まっています。
なかでも、2025年10月21日に発足した高市内閣が掲げる「責任ある積極財政」は、家計や企業活動への影響という点でも注目されています。
この記事では、積極財政とはどのような政策なのか、その仕組みやメリット・デメリット、私たちの生活にどのような影響があるのかをわかりやすく解説します。
積極財政とは
積極財政とは、政府が支出を増やしたり、減税を行ったりすることで、経済を下支えする財政政策のことです。
景気が悪くなると、国民は支出を控え、企業は投資に慎重になります。
その影響で企業の売上が伸びず、従業員の賃金も上がりにくくなり、結果としてさらに消費が弱まってしまう、という悪循環が起こります。
日本全体で消費が落ち込み、民間だけでは経済の回復が難しい場合に、政府が公共事業や給付金、補助金、減税などによって家計や企業が使えるお金を増やし、消費や企業活動を下支えするのが積極財政です。
たとえば、2025年12月31日から廃止された、ガソリン税の暫定税率(揮発油税及び地方揮発油税の特例税率)や、各自治体を通して順次支給された『物価高対応子育て応援手当』などは積極財政的な性格を持つ施策の一例といえます。
消極財政との違い
消極財政とは、政府の支出を抑えたり、増税によって税収を増やしたりすることで、財政赤字や国債発行の増加を抑えようとする財政政策です。
公共事業を減らしたり、補助金を見直したり、社会保障費の伸びを抑えたり、増税したりするといった政策が消極財政にあたります。
わかりやすく言えば、「景気や生活を支えるために政府がお金を使う政策」である積極財政に対して、「財政の悪化を防ぐために政府が支出を抑える政策」が消極財政です。
2019年に社会保障制度を次世代に引き継ぐための安定財源を確保する目的で行われた消費税の10%への引き上げは、消極財政的な性格を持つ施策の一例といえます。
積極財政の仕組み
政府が給付金や減税、補助金、公共投資などを通じて家計や企業が使えるお金を増やし、落ち込んだ消費や企業活動を下支えするのが、積極財政の基本的な仕組みです。
積極財政の仕組みを理解する上で重要なのが、積極財政の目的は目先の支援ではなく、中長期的な景気回復や経済の成長だという点です。
たとえば、景気の停滞によって消費が落ち込み、人が来なくなってしまった商店街があったとしましょう。
商店街に人が来なくなると、飲食店や小売店など商店街にあるお店は売上が減少します。
売上が減少すると、お店は従業員のシフトや仕入れを減らして赤字を回避しようとするでしょう。
商店街で働く従業員の収入が減ると、その人たちも商店街での買い物を控えるようになります。
結果として、さらに商店街を訪れる人が少なくなり、お店の売上が下がる、といった悪循環に陥ってしまい、商店街全体の景気がさらに落ち込んでいきます。
こうした悪循環に陥ってしまうと、各店舗が「もっと頑張ろう」と企業努力をするだけでは、すぐには人の流れが戻りません。
そこで、商店街を管轄する自治体が、商店街での景気回復を目的として商店街で使える商品券を配ったりすることで、人が商店街で買い物をするように促していくのです。
商店街で人が買い物をするようになれば、お店の売上が戻りやすくなり、仕入れや従業員のシフトも増え、金融機関から運転資金や設備資金を借りて新しい投資をするお店も出てきやすくなります。
結果として、商店街全体の景気が良くなっていくという好循環が生まれます。
実際にはもっと複雑ではありますが、政府が支出や減税を通じて消費・投資・雇用・企業活動を支え、景気低迷の悪循環を断ち切り、景気回復への好循環に入るきっかけを作り出していくのが積極財政の仕組みのイメージです。
積極財政で行われる具体的な施策
積極財政で行われる施策は、次表のように家計を直接支えて消費を促していく給付金や補助金、減税などから、企業や産業全体の成長を後押しするものまで、さまざまです。
| 積極財政の施策 | 施策の内容 |
|---|---|
| 給付金 | 政府が個人や世帯に現金を支給し、生活費の負担を軽くする施策。物価高や収入減で家計が苦しい世帯を支援し、消費を下支えする目的で行われる。 |
| 減税 | 所得税、住民税、消費税などの税負担を軽くし、家計や企業の手元に残るお金を増やす施策。個人や世帯の可処分所得を増やすことで、消費や投資を促す目的で行われる。 |
| 電気・ガス・ガソリン代の補助 | エネルギー価格の上昇による家計や企業の負担を抑えるため、電気・ガス料金や燃料価格の一部を政府が支援する施策。毎月の固定費や物流コストの上昇を抑える目的で行われる。 |
| 公共事業・インフラ整備 | 道路、橋、上下水道、防災設備、港湾などの整備やインフラの老朽化対策を進める施策。地域の建設需要を生み出すことで、企業の売上向上や雇用の創出につなげる目的で行われる。 |
| 中小企業支援 | 中小企業や小規模事業者に対して、補助金や融資、資金繰り支援、設備投資支援などを行う施策。事業者の経営の安定や生産性向上、事業継続を後押しする目的で行われる。 |
| 成長産業への投資 | AI、半導体、再生可能エネルギー、宇宙、バイオ、量子技術など、中長期的な成長が見込まれる分野に政府が投資や研究開発支援を行う施策。新産業の育成や国際競争力の強化を目指す目的で行われる。 |
| 賃上げ支援 | 企業が従業員の賃金を引き上げやすくするため、補助金や税制優遇、価格転嫁対策などを行う施策。従業員の賃金上昇を通じて、間接的に消費を増やし、経済の好循環につなげる目的で行われる。 |
| 子育て支援 | 児童手当、保育料の軽減、教育費支援、出産・育児に関する給付などを通じて、子育て世帯の負担を軽くする施策。家計の支援や、子育てを経済的にしやすくする目的で行われる。 |
| 医療・介護分野への支援 | 医療機関や介護事業者に対して、物価高や人件費上昇への対応、設備整備、処遇改善などを支援する施策。医療・介護サービスの維持や働く人の待遇改善につなげる目的で行われる。 |
過去に実際に行われた積極財政的な性格を持つ施策
日本ではこれまでも、景気が落ち込んだときや、社会全体に経済不安が広がったときに、積極財政に近い政策を行ってきました。
政府がお金を使う経済対策がすべて積極財政というわけではありませんが、バブル崩壊後の公共事業の拡大や減税、リーマン・ショック後の定額給付金、アベノミクス期の緊急経済対策、コロナ禍の特別定額給付金や事業者支援、「Go To キャンペーン」、そしてガソリン税の暫定税率(揮発油税及び地方揮発油税の特例税率)や物価高対策としての燃料費・電気代支援などが積極財政的な性格を持つ施策といえます。
積極財政のメリット
積極財政のメリットは、政府が支出や減税によってお金の流れをつくり、景気の落ち込みを和らげられる点です。
特に、家計が節約し、企業が投資や採用を控えている局面では、民間だけで消費や投資の需要を回復させることが難しくなります。
そこで、政府が給付金、補助金、公共投資、減税などを行うことで、家計や企業を下支えし、経済全体の悪循環を防ぐ効果が期待されます。
また短期的な景気対策になるだけではなく、教育や科学技術、インフラ、デジタル化、人材育成、産業育成などにお金を使うことで、中長期的な日本全体の生産性向上や経済成長につながるのも積極財政のメリットです。
積極財政のデメリット
積極財政のデメリットは、政府が支出を増やすことで、財政悪化や金利上昇、インフレなどのリスクが生じる点です。
積極財政では、給付金、補助金、公共投資、減税などを行うため、多くの財源が必要になります。税収だけで足りない場合は、国債を発行して資金を調達することになります。
結果として、財政赤字や国債残高が増え、将来ほかの政策に使えるお金が限られる可能性があります。
また、すでに需要が十分にある状態で政府支出を増やしすぎると、需要だけが高まり、かえって物価上昇を招いてしまうリスクもあるのです。
このように、積極財政は単に政府がお金を使えば景気が良くなる、という単純なものではなく、期待した効果が出にくかったり、物価上昇や将来的な財政負担を重くしたりする可能性もあります。
積極財政によって私たちの生活はどう変わる?
積極財政と聞くと、どこか自分たちの生活とは遠いもののように思えてしまうかもしれませんが、実は政府が行う積極財政によって私たちは次のような影響を受けています。
減税や給付金によって家計の負担が軽くなる
減税や給付金は、積極財政のなかでも私たちが影響を実感しやすい施策です。
所得税や住民税の負担が軽くなったり、給付金が支給されることで、私たちの手元に残るお金が増え、食費や教育費、日用品などに充てやすくなります。
電気・ガス・ガソリン代の補助で毎月の固定費を抑えられる
電気代やガス代、ガソリン代の補助も私たちが影響を実感しやすい施策です。
光熱費や燃料費は家計には欠かせない支出であるため、補助が行われることによって負担軽減を感じやすいといえます。
また、燃料費の支援は車を使う方だけではなく、物流費の負担減にもつながり、間接的に商品価格やサービス価格の上昇を和らげる効果も期待されます。
公共投資や企業支援によって雇用や賃上げにつながる可能性がある
政府が道路、防災設備、インフラ整備などの公共投資や企業支援を行うと、関連する企業の仕事が増えやすくなったり、資金繰りが改善しやすくなります。
企業の売上や資金繰りが安定すれば、雇用の維持や採用の拡大、賃上げなどにもつながりやすくなります。
公共事業の増加による勤務先や取引先の受注増や、勤めている企業の雇用や賃上げといった点で間接的に影響を実感できる施策です。
物価上昇や将来の増税につながる可能性がある
積極財政によって家計や企業が使えるお金が増えると、消費や投資が活発になる一方で、物価が上がりやすくなる場合があります。
特に、すでに物価が高い時期に大規模な財政支出を行うと、需要が高まり、さらなる価格上昇を招きかねません。
また、財源として国債の発行が増えれば、将来の利払い負担が重くなる可能性があります。
そうした負担を補うために、将来的に増税や歳出削減が議論されることも考えられます。
積極財政の仕組みを理解し、生活への影響を知っておこう
積極財政が一体何なのかを理解すると、「今現在政府が行おうとしている施策はどのような施策なのか?」や、「自身の生活にどのような影響があるのか?」がより分かるようになります。
ぜひ、今回解説した積極財政の知識を基に、「政府がどういった目的でこの施策を行っているのか」を考えてみてください。
以前は身近に感じなかった政治や経済が、より身近なものに感じられるはずです。
書籍・メディアの取材・執筆・編集の業務経験を経て、2015年にフリーライターとして独立。これまで30以上のジャンル、計5,000記事以上の企画・執筆・編集を手掛ける。現在はコンテンツマーケティングの会社経営の傍、「取材・調査は足で」を信条に、読者に信頼される情報の提供を目指すライターとしても活動。豊富な記事執筆経験を活かし、読者にとって役立つ情報を分かりやすく提供。




