年収の壁とは?
見直された内容や収入ごとのメリット・デメリットもあわせて解説

働き方や社会保障に大きく関わる「年収の壁」は、パートやアルバイトで働く方々やご家族の手取りに大きく影響を与える可能性があります。この記事では、改正のポイントや年金の壁の種類などを解説しますので、働き方の見直しに活用してみてください。
年収の壁とは?

年収の壁とは、社会保険料の負担増加や各種控除がなくなることなどが原因で、一定の年収を超えると手取りが減る制度上の境界線のことです。年収が数万円増えただけで手取り額が大幅に減少してしまうケースもあり、多くの方が年収の壁を意識し、働き方を調整しています。
近年は働き方改革や女性の社会進出促進の観点から、これらの壁を緩和する方向で制度改正が進められています。
令和7年の制度改正のポイント

ここからは、令和7年の制度改正のポイントを解説します。
所得税の非課税枠が拡大
所得税の非課税枠「年収103万円の壁」は123万円に引き上げられます。これに伴い、他の年収の壁にも影響を及ぼします。
従来と新制度の壁の違い
- 従来:基礎控除48万円+給与所得控除55万円=103万円
- 新制度:基礎控除額58万円+給与所得控除65万円=123万円
改正は段階的に進められ、令和7年は所得税のみ適用されます。令和8年以降は所得税と住民税の両方に適用される予定です。年収の壁の引き上げにより、以下のメリット・デメリットが考えられます。
年収の壁引き上げのメリット
パート・アルバイト従業員の収入向上
パートやアルバイトの従業員が、年収の壁未満でより高い収入を得られるようになります。これまで「103万円を超えないように」と調整していた方も、新たな基準内でより多く働くことが可能です。
企業の人手不足解消
企業が従業員により多くの勤務時間を依頼できるようになり、人手不足解消につながります。特に短時間労働者を多く雇用する小売業やサービス業にとって、大きなメリットです。
世帯の可処分所得増加
世帯の可処分所得が増加し、生活水準の向上につながります。特に子育て世代や共働き世帯においては、家計の余裕が生まれる可能性があります。
年収の壁引き上げのデメリット
年収の壁引き上げにはメリットがある一方、デメリットもあります。
税収減少
非課税範囲の拡大により一定数の納税者が減ることで、国と地方自治体の税収に影響が出る可能性があります。
税制上の格差拡大
専業主婦(夫)世帯と働く配偶者のいる世帯の間で、税制上の格差が広がる恐れがあります。制度改正の恩恵を受けられる層と受けられない層の差が生じる点に注意が必要です。
企業の事務負担増加
企業が従業員の配偶者の収入状況を、新基準で管理する手間が増えます。特に移行期間中は、旧制度と新制度の並行運用が必要です。そのため、各種手当の計算に関わる人事・給与担当者の負担が増える可能性があります。
どのような年収の壁がある?

年収の壁は主に「社会保険の壁」と「税金の壁」の2つに分けられ、収入に応じた対策が必要です。それぞれの壁を超えると、どのような影響があるのかを詳しく見ていきましょう。
社会保険の壁
社会保険の壁は、健康保険や厚生年金の加入条件に関連する境界線です。この壁を超えると、社会保険料の負担が発生したり増加したりします。
106万円の壁
年収106万円(月額8.8万円)を超えると、以下の条件をすべて満たす場合に社会保険への加入が必要になります。
加入条件
- 所定労働時間が週20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上(※残業代や交通費除く)
- 2ヶ月を超える雇用見込みがある
- 学生ではない
- 従業員51人以上
130万円の壁
年収が130万円を超えると親や配偶者の扶養から外れ、自身で社会保険に加入する必要があります。これにより、健康保険料・年金保険料の負担が新たに発生します。年収が130万円を超えると、増えた収入よりも保険料負担が上回り、実質的な手取りが減少するデメリットもあるため注意が必要です。
ただし、一時的な収入増加で130万円を超えた場合は「事業主の証明による被扶養者認定」が活用できます。これは従業員の休職対応や繁忙期の勤務時間増加などによる一時的な収入増加を証明するもので、引き続き扶養に入れる可能性があります。ただし、この認定は原則連続2回までです。
税金の壁
税金の壁は、所得税や住民税への課税や、各種控除の適用範囲に関する境界線です。
100万円の壁
年収100万円を超えると住民税(所得割)が課税されます。所得に対して一律10%かかるため、年間で数万円の住民税負担が生じます。住民税は前年の所得に対して課税されるため、収入が増えた翌年から影響が出る点に注意が必要です。
一部の市区町村では、93万円・96.5万円・97万円を超えると、住民税(均等割)が課税される地域があります。
なお、給与所得控除の引き上げに伴い、令和8年(令和7年の所得)から、住民税の「100万円の壁」が「110万円の壁」に変わる予定です。
123万円の壁
年収が123万円を超えると、所得税が発生します。所得税は、所得に応じて税率が上がる累進課税制度です。配偶者がいる場合は「配偶者控除」が「配偶者特別控除」に変わる基準でもあります。
また、19〜22歳以外の家族がこの収入を超えると扶養控除も外れるため、家計全体への影響を考慮する必要があります。
150万円の壁
年収が150万円を超えると、特定親族特別控除が満額(63万円)受けられなくなります。これは、従来の特定扶養控除の要件緩和により設けられた控除です。主に大学生など高等教育を受ける子どもがいる世帯に適用されるもので、教育費負担の軽減を目的としています。年収が増えるにつれて控除額が段階的に減少するため、対象となる家庭では特に注意が必要です。
160万円の壁
年収が160万円を超えると、配偶者特別控除が満額受けられなくなります。以降は年収が増えるにつれて控除額が段階的に減少していくため、収入増加分と控除減少分を比較して、実質的な手取りの変化を計算する必要があります。
188万円の壁
年収が188万円を超えると、特定親族特別控除が適用されなくなります。家族構成や教育状況によっては、年間で数十万円の影響が出る可能性があります。高等教育を受ける子どもの教育費負担が大きい世帯では、家計管理の観点から重要な境界線です。
201万円の壁
年収が201万円を超えると、配偶者特別控除の適用がなくなり、所得税や住民税が大幅に増加する可能性があります。扶養手当や家族手当なども含めて、年収の壁を意識した収入計画が、世帯収入のカギを握ります。
まとめ
年収の壁に関する制度改正は段階的に変化しています。基準を把握せずに働くと、予想以上の社会保険料や税金負担が生じる可能性があります。家族の収入や世帯の状況に応じて、どの壁が対象になるかを正確に把握し、対策することが重要です。
また、現在は制度改正が頻繁に行われているため、最新情報を定期的にチェックして適切な働き方や効率的な家計管理の見直しに役立てていきましょう。

2023年にファイナンシャルプランナーとして独立。
商品販売は一切行わず、金融教育や投資の普及を目指し、特に学生や若い世代のマネーリテラシー向上に注力。
金融系メディア等で年間200本以上の執筆・監修に携わる。10代から投資経験を積み、資産運用分野を得意とする。