住宅ローンは年収の何倍までが安全?
「借りられる額」と「返せる額」の決定的な違い
「そろそろマイホームが欲しいけれど、住宅ローンはいくらまで借りて大丈夫なのだろう……」と悩んでいませんか? 住宅ローンの目安は一般的に「年収の5~7倍」といわれ、多くの人がこの範囲で購入しています。
しかし、知っておきたい重要なポイントがあります。それは、銀行の審査で決まる「借りられる額」と、ご家庭ごとに異なる「無理なく返せる額」にはギャップがあるという点です。
なお、「年収の○倍」という倍率は、あくまで借入額の規模感をつかむための目安です。金融機関によって審査の考え方は異なり、倍率そのものを審査の基準にしているわけではありません。
そのため、倍率が一般的といわれる範囲に収まっていても、審査の結果は個別の状況によって変わります。「○倍以内だから必ず借りられる(審査に通る)」と考えるのは避けましょう。
本記事では、本当に無理のない借入額の導き方を解説します。リアルな家計に寄り添った予算を一緒に見極めましょう。
住宅ローンは年収の何倍が目安?データから見る平均値
まずは、公的な調査データをもとに、世間の平均的な借入額の目安を見ていきましょう。
【結論】住宅の取得費の全国平均は「5~7倍」!フラット35の最新調査データ
住宅金融支援機構の2024年度「フラット35利用者調査」によると、住宅の取得費の年収倍率は、全国平均でおおむね5~7倍台です。物件の種類別では、次のようになっています。
- 土地付き注文住宅:約7.5倍
- 新築マンション:約7.0倍
- 建売住宅:約6.7倍
- 中古マンション:約5.5倍
- 中古戸建:約5.3倍
新築・分譲は6~7倍台、中古は5倍台が目安です。なお、この倍率は「所要資金÷額面世帯年収」、つまり借入額ではなく自己資金も含んだ取得費全体に対する数字である点には注意してください。
参照元:住宅金融支援機構「2024年度フラット35利用者調査」
ただし、これはあくまで平均値であり、「平均の範囲内なら安全」という意味ではありません。新築では年収の7倍を超える水準も珍しくありませんが、それは多くの人がそれだけの金額で購入しているという事実を示すだけで、無理なく返せる額を保証するものではありません。
なぜ「年収の5倍」が無理のない目安といわれるのか?
住宅ローンでは「年収の5倍以内」が無理のない目安の一つとされています。返済は数十年続き、その間に金利の上昇や教育費の増加といった変化が起こり得ます。借入時点で返済額を抑えておくことが、その備えになります。
例えば年収500万円の方が5倍の2,500万円を、変動金利1.0%・返済期間35年(元利均等返済)で借りた場合、毎月の返済額はおよそ7万円。手取り月収32万円程度なら、返済額は手取りの25%に収まります。(※金利や返済期間で返済額は変わります)
返済額を借入時の手取りの25%以内に抑えておけば、将来金利が上がって返済額が増えても家計が圧迫されにくく、変化に対する「余力」を残せます。特に、借りる時期が20代~30代で将来年収が上がれば、その分ゆとりは広がります。
無理のない借入額は家族構成やライフスタイル、収支計画によって一人ひとり異なるので、ご自身に合った借入額を見極めましょう。
「借りられる額」と「返せる額」はまったく別物!
ここでは、銀行が大きな金額を貸してくれる仕組みと、その数字をそのまま信じる危険性について解説します。
なぜ年収の7~8倍もの借入が可能になることがある?「担保」の仕組み
銀行の住宅ローン審査では、結果として年収の7~8倍といった高額な借入が可能になることもあります。これは、銀行が「年収の何倍まで」という倍率で貸せる額を決めているからではありません。毎月きちんと返済していけるかという「返済能力」や、購入する家や土地そのものを価値の高い「担保(抵当権)」として設定できるか、といった点を“総合的に審査した結果”として、大きな金額を借りられるケースがあるということです。
担保とは、万が一ローンの返済ができなくなったときに、銀行がその物件を売却して貸したお金を回収できる権利のことです。
こうした仕組みがあるため、結果的に年収の7~8倍に相当する金額まで「借りられる額」として提示されることもあるのです。
「いざとなったら売ればいい」の落とし穴(オーバーローンに注意)
銀行が貸してくれるからといって、限度額いっぱいまで借りてしまうのは避けたいところです。将来もし家を手放すことになったとき、家を売ったお金でローンを全額返済できるとは限らないからです。
例えば、ローンがまだ4,000万円残っているのに、家を売ろうとしたら3,000万円でしか売れないという状況を「オーバーローン」と呼びます。
この場合、足りない1,000万円を自己資金で払わないと、家を売ることすらできなくなってしまいます。
「いざとなったら家を売ればいい」と軽く考えて限度額まで借りてしまうと、後で身動きが取れなくなる落とし穴があるのです。
だからこそ、銀行が提示する「借りられる額」ではなく、着実に残高を減らしていける「無理なく返せる額」を基準にする必要があります。
「無理なく返せる額」の判断基準
無理なく返せる額は、「額面年収」ではなく「手取り年収」をベースに計算するのが重要です。額面には税金や社会保険料が含まれ、実際に使えるお金は少ないからです。
例えば年収600万円の方なら、手取り年収はおよそ460万円。これをもとに5~6倍で計算すると、約2,300万円~2,800万円が目安になります。
この「5~6倍」は手取りベースの倍率で、前章のフラット35「5~7倍(額面・所要資金ベース)」とは基準が違います。手取り460万円の5倍は額面600万円に対して約4倍に当たり、見た目より実際はかなり保守的な水準です。仮に額面年収600万円の7倍(4,200万円)で借りると、毎月の返済が生活費を大きく圧迫しかねません。
ただし、倍率はあくまでざっくり見当をつけるための考え方です。金利や返済期間などの条件により返済額は変わるため、最終的には「返済額が手取り月収の何%を占めるか」で判断することをおすすめします。
「早見表」はズレやすい?自分に最適な借入額を知る3ステップ
インターネット上には「年収別借入可能額早見表」などがたくさんありますが、それをそのまま信じるのは避けましょう。
早見表も「年収の〇倍」という倍率も、金利や返済期間を一定と仮定した“ざっくりした目安”にすぎません。実際には、同じ借入額でも金利が上がれば毎月の返済額は増え、手取りに占める割合(%)も上昇します。
ここでは、自分だけの正確な借入額を導き出すための3つの手順をお伝えします。
なぜ年収別の「借入早見表」をそのまま信じてはいけないのか?
ネット上の早見表を鵜呑みにしてはいけない理由は、人によって住宅ローンを組む条件が異なるからです。
早見表の多くは、「金利が一定であること」や「返済期間が35年であること」などを前提に作られた単なるシミュレーションにすぎません。
例えば、選ぶ金利が変動金利か固定金利かによって毎月の返済額は大きく変わります。
また、ローンを組む年齢によって、35年で組める人もいれば、定年までの期間を考えて25年で組む人もいます。逆に40~50年という長期で組む人もいるでしょう。
このように、個人ごとの細かい条件が反映されていない早見表は、実際の借入可能額と大きくズレるリスクがあるため、あくまで参考程度に留めておくべきです。
自分でできる!「手取り月収」から安全な返済額を割り出す方法
最適な借入額を知るための第一歩は、「手取り月収」から毎月無理なく払える金額を割り出すことです。
なぜなら、毎月の家計のやりくりは、手取り月収の中から行われているからです。
一般的に、住宅ローンの返済額は「手取り月収の20~25%以内」に収めると、無理が生じにくいといわれています。
例えば、手取り月収が40万円の家庭であれば、その25%である「毎月10万円」を住宅ローンの返済上限額として自分で設定します。
ここで出た10万円という数字は、早見表のような平均値ではなく、あなたのリアルな家計から導き出された「無理なく払える金額」といえます。
まずはこの上限額をしっかりと把握することが重要です。
毎月の返済額から「総借入額」を逆算しよう(シミュレーターの活用)
毎月払える上限額が分かったら、次はその金額から「総借入額」を逆算して調べます。
その理由は、自分が実際に借りる予定の金利や返済期間を設定して計算することで、初めて正確な借入可能額が見えてくるからです。
具体的には、銀行の公式サイトなどにある「ローンシミュレーター」を活用します。シミュレーターの画面で、先ほど計算した「毎月返済できる額(例えば10万円)」を入力し、自分が希望する返済期間や金利タイプを選んで計算しましょう。
すると、「あなたが無理なく借りられる総額」という結果が算出されます。
「年収〇倍」の落とし穴!あなたの実際の生活費で返せますか?
一般的に、住宅ローンは手取りの25%以内に収めるとよいといわれています。
しかし、「これで安心」と思うのはまだ早いです。人生にはお金がかかる時期があり、生活費は変化していくものだからです。
「手取りの25%以内」でも安心できない?教育費ピークの罠
住宅ローンの返済を手取りの25%以内に設定したとしても、手放しで安心とは言い切れません。
例えば、子どもが小学校、中学校、高校、大学へと進学するにつれて、塾の費用や入学金、学費などが必要になります。
この「教育費のピーク」と毎月の住宅ローンの返済が重なったとき、手取りの25%をローンに充てていると、日々の生活費が足りなくなって家計がショートしてしまうリスクがあります。
だからこそ、今の家計だけでなく、将来の支出が増える時期のこともしっかりと見据えて余裕を持っておく必要があるのです。
住宅ローンを組む前に「今の家族の生活費」を把握すべき理由
適正な借入額を知るための第一歩は、現在の家計の生活費を把握することです。同じ年収でも、住む場所の物価、休日の過ごし方や食費、趣味にかけるお金など、ライフスタイルによって家計のゆとりは激変するからです。
例えば、休日は近所の公園でお金を使わずに楽しむ家族と、毎週末は遠出して外食や買い物をする家族とでは、毎月貯金に回せる金額がまったく異なります。
住宅ローンの計算をする前に、まずは自分たちの家族が毎月いくら生活費を使っているのかを知ることが大切です。
なお、家族4人の平均的な生活費データや節約のポイントについては、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
家族4人の生活費は?子どもの年齢別の平均と節約のポイントを解説
購入後に「こんなはずじゃなかった」を防ぐための3つの家計チェック
家を買った後に「毎月こんなにお金がかかるとは思わなかった」と後悔しないよう、購入前に確認しておきたい3つのチェックポイントを紹介します。
毎月の住宅ローン返済以外にかかる「維持費」を計算に入れているか
家を所有すると、住宅ローンの返済以外にも毎月または毎年、さまざまな「維持費」がかかることを忘れてはいけません。
例えば、持ち家になれば毎年「固定資産税」を支払う義務が発生します。
マンションであれば「修繕積立金」「駐車場代」「管理費」が毎月かかりますし、戸建であっても、将来の外壁塗装や屋根の修理といったメンテナンス費用を自分で積み立てておく必要があります。
これらの住居費は月々に換算すると数万円になることも多いため、ローンの返済額に上乗せして計算しておくことが不可欠です。
ライフイベント(出産・車の買い替え・親の介護)の予算を確保しているか
住宅ローンは35年など非常に長い期間をかけて返済していくものです。その間に発生するライフイベントの予算を確保できているかチェックしてください。
例えば、新しく子どもが生まれるときの出産費用や、古くなった車を買い替えるための資金、あるいは将来親の介護が必要になったときの備えなどです。
こうしたまとまった出費が発生したとき、住宅ローンの返済で手一杯になっていると、家計が苦しくなってしまいます。
将来のライフプランを想像し、余裕を持った予算を組むことが大切です。
現在の「家賃+毎月の貯蓄額」と「毎月の返済額」を比較してみる
最後に、シンプルな逆算確認法をお伝えします。それは、今の「家賃+毎月の貯蓄額」と、購入後の「毎月の返済額+維持費」を比較することです。
この方法を使うと、家を買った後も今の生活水準を維持できるかどうかが分かるからです。
例えば、現在賃貸に住んでいて、毎月の家賃が8万円、さらに毎月5万円を貯金できているとします。合計すると13万円です。
もし新しく組む住宅ローンの返済額と維持費の合計が月13万円以下に収まるのであれば、購入後も今の生活水準をギリギリ維持できることが分かります。
ただし、このケースでは生活水準こそ維持できるものの、毎月5万円できていた貯金ができなくなる点には注意が必要です。
今後、年収が上がる見込みがあるか、貯金が減っても将来の教育費などに影響が出ないかなど、しっかりとシミュレーションしてみましょう。
まとめ
住宅ローンを組むときは、「銀行から年収の何倍まで借りられるか」という数字だけで決めるのは避けたいところです。年収倍率はあくまで目安にすぎず、それ自体が「無理なく返せること」を保証するものではありません。
ここまで解説してきたように、額面年収ではなく実際の「手取り月収」を基準にし、将来やってくる「教育費のピーク」を見据え、我が家にとって「無理なく返せる額」から逆算することが何より大切です。
また、家を担保にして大きなお金を借りる仕組みや、家の価値がローン残高を下回るオーバーローンのリスクもしっかりと理解しておきましょう。
その上で、将来のライフイベントや維持費まで含めて予算を組めば、無理のない、納得感のある住宅ローンにぐっと近づけます。
新卒で総合職として三菱UFJ銀行に入行し、法人融資・金融商品販売などを担当。
商社へ転職後に結婚、出産を機に退職し、ライターとして独立。
現在は、2級FP技能士の資格や知識を活かして、金融系メディアを中心に執筆している。




