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親が認知症になったらどうする?
知っておきたい預金の引き出し方について

2022/05/10

親が認知症になると、本人名義の銀行口座から預金が引き出せなくなる場合があります。介護や医療に必要なお金を本人の口座から下ろせなくなると、家族が多額の立替をせざるをえない状況になるかもしれません。この記事では、親が認知症になる前に知っておくべき対策について解説します。

親が認知症になったら預金の引き出しはできない?

親が認知症になったら預金の引き出しはできない?

預金の引き出しは、口座名義人の意思によらなければなりません。認知症にかかると本人の意思表示は難しく、子どもであっても預金の引き出しができなくなることがあります。

認知症とは

脳の病気や障害などによって認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出る状態を「認知症」といいます。加齢による物忘れに似た状態から始まり、徐々に「仕事や家事でミスが増える」「道に迷う」「気分が落ち込む」「妄想する」など症状が進行します。理解力・判断力の低下により、銀行預金が下ろせなくなる人も少なくありません。2025年(令和7年)には高齢者の約5人に1人が認知症になると予測されています(出典:厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」より)。親が高齢になると認知症になる可能性があることは、誰でも知っておく必要があるのです。

起こり得るトラブルとは?

認知症が進行すると、買い物や契約関連のトラブルが起こりやすくなります。不要なモノの購入やリフォームなどの高額契約、金融商品の購入なども考えられるでしょう。また保険金の受取人になっている場合は、意思表示ができずに受け取れないケースもあります。

金融資産を守るための口座取引の制限

判断能力が大幅に低下すると、金融機関によって口座取引が制限されることがあります。認知症による取引制限は、死亡時のような取引の全面停止とはなりません。年金の振り込みや公共料金の口座引き落としは継続しますが、出金や契約内容の変更ができなくなるのです。顧客本人の意思が確認できない状態での取引は、金融機関にとってリスクを伴います。取引の制限には、顧客の金融資産を不適切な取引から守る目的があるのです。

どのような状態で取引が制限されるのか

金融機関は「顧客の判断能力に大幅な低下があることを知った」時、取引を制限するとされています。しかし、医師により認知症と診断されると、直ちに取引が制限されるわけではありません。認知症と診断されても、自ら入出金などができれば問題にはならないのです。一般的には「自分で窓口に来られる」「氏名・生年月日が答えられる」「自筆の署名ができる」ならば、判断能力が大きく低下しているとはみなされないでしょう。

金融機関によっては柔軟な対応も

認知症患者の増加に伴い、患者本人の金融資産が動かせなくなるケースの増加が予想されます。この状況を踏まえ、2021年(令和3年)2月18日に全国銀行協会は「金融取引の代理等に関する考え方」を発表しました。この方針では基本的に、認知症の顧客の預金引き出しにつき成年後見制度の利用が求められます。ただし、顧客の医療費などの使途に限り、親族が代わりにお金を引き出せるという考えを公表しました。

この方針を受けて、今後は各金融機関で柔軟な対応がされる可能性があります。しかし、親のお金の管理については、認知症になる前に対策をしておきましょう。

認知症になった後で家族が代わりに引き出したい場合は?

認知症になった後で家族が代わりに引き出したい場合は?

認知症で金融機関の取引が制限されると、家族はお金を引き出せません。では家族が代わりに引き出したい場合は、どうすればよいのでしょうか。ここでは、取引制限を解除するための解決策である「法定成年後見制度」について解説します。

法定成年後見制度の利用

法定成年後見制度とは、家庭裁判所に選任された成年後見人が財産の管理を行う制度です。一般的に、認知症になった際に採用されます。

親族以外から選任され費用が発生することも

成年後見人には、弁護士や司法書士など親族以外の人が選任されることもあります。その場合、財産の管理に対して家族や本人の意向が反映されるとは限りません。これは法定成年後見制度が、財産の適切な管理と相続人間での争いを未然に防ぐことを目的としているためです。親族以外の成年後見人に対しては、報酬を支払う必要があることにも注意しましょう。また一般的に、法定成年後見人が正式に選任されるまでには数ヶ月かかります。口座の取引制限の解除は、その後になることを頭に入れておきましょう。

認知症になる前に!将来の資産管理に備える方法

認知症になる前に!将来の資産管理に備える方法

成年後見制度は認知症患者の親族にとって、使いにくい制度であることは否定できません。しかし、まだ認知症になっていない、またはまだ判断能力が認められる場合には他の方法での資産管理が可能です。ここでは、親が認知症になる前にできる2つの解決策を紹介します。

任意後見制度

まだ判断能力があるうちに家族(任意後見人となる人)との間で、財産管理や身上監護をしてもらえるよう契約を結んでおく制度です。その後、本人の判断能力が大きく低下した時、家庭裁判所へ後見監督人の選任の申立てをします。任意後見人の権限はその時点で発動します。任意後見人が金融機関に届け出れば、本人の口座から預金の入出金などが可能です。

後見監督人に報酬の支払いと報告が必要

任意後見監督人は第三者であるため、報酬を支払わなくてはなりません。任意後見人には、任意後見監督人へお金の管理状況などの報告が義務付けられています。任意後見人となる家族にとっては負担になりますが、相続発生後のトラブルは発生しにくくなります。

家族信託

特定の目的のために保有する資産を信頼できる家族に託し、その管理・処分を任せる仕組みを家族信託といいます。家族信託は自分の老後の生活・介護などに必要な費用の管理を、認知症になる前に家族に託したい際に利用できる制度です。

子ども名義の信託口口座で親の財産を管理

親子で家族信託の契約を結ぶと、親(委託者)の口座から子ども(受託者)名義の信託口口座に現金を移せます。受託者である子どもには取引の帳簿を作成する義務があるため、不正使用の防止が可能です。判断能力の低下により親の口座取引が制限されても、信託口口座の取引が行えるのは安心できるポイントでしょう。

ただし信託口口座の開設は、誰でもどの金融機関でも開設できるわけではありません。開設したい場合には、事前に金融機関へ確認する必要があります。

まとめ

親が認知症になったとしても、必ずしも親族が預金を引き出せなくなるわけではありません。ただし認知症になってからでは、預金を引き出すための選択肢が絞られてしまいます。家族全員の意向に沿った資産管理がしたいなら、認知症になる前から準備をしっかりと行っておきましょう。本記事で紹介した解決策を参考に、家族でよく話し合って各家庭に合った方法を選択してください。



著者プロフィール

著者 松田 聡子

群馬FP事務所代表、CFP®、証券外務員二種、DCアドバイザー

国内生保に法人コンサルティング営業を経て2007年に独立系FPとして開業。企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在は法人向けには確定拠出年金の導入コンサル、個人向けにはiDeCoやNISAでの資産運用や確定拠出年金を有効活用したライフプランニング、リタイアメントプランニングを行っている。

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