年金の最高額はいくら?
制度の仕組みと受け取る条件、計算方法を紹介
老齢厚生年金の保険料は収入によって決まり、多く保険料を支払うと将来受け取る年金も多くなります。しかし、際限なく年金額が増えるわけでなく、上限が設けられている点に注意が必要です。今回は公的年金制度の仕組みと、年金が最高額になる条件などを解説します。
日本の年金制度の仕組み
最初に、日本の公的年金制度の仕組みを知っておきましょう。
日本の公的年金制度は2階建て
日本の公的年金制度は、国民年金(基礎年金)と厚生年金の「2階建て」と呼ばれています。
画像出典:日本年金機構「公的年金制度の種類と加入する制度」
国民年金
20歳以上60歳未満のすべての国民に加入が義務づけられている公的年金です。国民年金だけに加入する第1号被保険者は自分で保険料を納付し、2023年(令和5年)度の保険料は月額1万6,520円です。
厚生年金
会社員や公務員が加入する、基礎年金に対する上乗せの年金です。国民年金の加入は20歳からですが、厚生年金は20歳未満でも会社員や公務員であれば加入します。厚生年金の保険料は、毎月の給与や賞与の額によって決まります。また、保険料は事業主と被保険者で半額ずつを負担する仕組みです。
老齢基礎年金(国民年金)の受給額
老齢基礎年金は保険料を納めた月数で受給額が決まり、2023年(令和5年)度の満額は月額6万6,250円(67歳以下の場合)です。満額が受け取れるのは、保険料を480カ月納めた人です。保険料を納めた月数が456カ月の人の受給額は6万2,937円(6万6,250円×456カ月/480カ月)となります。
老齢厚生年金の受給額
老齢厚生年金の受給額(年額)は報酬比例部分と加給年金の合計です。報酬比例部分は加入期間中の報酬(給与)によって決まる年金で、加給年金は65歳未満の配偶者などがいる場合に受け取れる年金です。今回は老齢厚生年金の受給額を、報酬比例部分のみと考えます。
2003年(平成15年)4月以降の加入期間分の、老齢厚生年金の報酬比例部分の計算式は以下のとおりです。
報酬比例部分=平均標準報酬額×5.481/1,000×加入月数
標準報酬月額と標準賞与額とは
平均標準報酬額は、標準報酬月額と標準賞与額の総額を加入期間で割って求めます。標準報酬月額とは、社会保険料の計算のために1カ月分の給料を「29万円以上31円未満」のような範囲によって等級分けした金額です。標準賞与額は、税引き前の賞与額から1,000円未満の端数を切り捨てたものです。厚生年金保険で標準賞与額の対象となる賞与は、年3回以下の回数で支給されるものを指します。
老齢年金の最高額の計算方法と受け取る条件
老後に受け取る老齢年金は、最高でいくらになるでしょうか。老齢基礎年金、老齢厚生年金の最高額の条件と金額を解説します。
老齢基礎年金の最高額(満額)
老齢基礎年金の最高額は、保険料を480カ月納付した場合に受け取れる満額です。老齢基礎年金の金額は毎年見直されるため、同じ金額をずっと受け取れるとはかぎりません。
老齢厚生年金の最高額
老齢厚生年金の最高額は計算方法について解説します。
標準報酬月額・標準賞与額の上限
標準報酬月額、標準賞与額には上限があります。標準報酬月額の上限は65万円(報酬月額63万5,000~66万5,000円)で、実際の給料が200万円だとしても65万円として計算されます。また、標準賞与額は、支給1回あたりの上限が150万円です。
老齢厚生年金の最高額をもらえる年収と年金月額
理論上、厚生年金の最高額をもらう条件は以下のとおりです。
厚生年金の最高額をもらう条件
● 厚生年金に16歳から70歳まで加入する
● 厚生年金の加入期間中の給与が常時63万5,000円以上
● 厚生年金の加入期間中の賞与を毎年3回、150万円以上受け取る
この条件に当てはまる人の年収は1,212万円以上で、平均標準報酬額は102万5,000円となります。
16歳から70歳での加入月数を648カ月として、老齢厚生年金の最高額は以下の計算式で求められます。
102万5,000円×5.481/1,000×648カ月=364万480円
月額では30万3,373円、満額の老齢基礎年金と合計すると36万9,623円です。
老後に受け取る年金を増やす方法
月額30万円以上の年金を受け取るには、長期に渡って年収1,000万円以上で働く必要があるとわかりました。多くの人にとって現実的でない水準であり、老後に年金だけで生活するのは難しいといえるでしょう。最後に、老後に受け取る年金を増やす方法を3つ紹介します。
国民年金基金やiDeCoに加入する
2階建ての公的年金制度に個人で上乗せする3階部分として、国民年金基金やiDeCo(個人型確定拠出年金)があります。
国民年金基金は、20歳以上60歳未満の自営業者など第1号被保険者が任意で加入できる公的な年金制度です。
iDeCoは20歳から60歳までの人が加入できる、公的年金の上乗せのための制度です。加入者が掛金を自分で運用し、その成果を60歳以降に受け取ります。
どちらも掛金は全額所得控除の対象です。第1号被保険者の場合、掛金の上限が国民年金基金とiDeCoの合算で月額6万円8,000円です。
60歳以降も厚生年金に加入して働く
60歳以降も厚生年金に加入して働くと、年金額を増やせます。公的年金の受給は65歳からであり、60歳以降も就労する人は増えています。
総務省の労働力調査(基本集計)によると、2022年(令和4年)の60歳から64歳の就業率は男性83.9%、女性62.7%でした。健康なうちは厚生年金に加入して働けば収入を得られるだけでなく、受け取る年金額も増やせます。
さらに、厚生年金に加入していると64歳まではiDeCoに加入でき、年金の上積みが可能です。たとえば、年間の給与が120万円で10年間厚生年金に加入した場合、報酬比例部分は月額で4,900円増えます。無理のない範囲で働くことは、老後の生活設計のプラスになるでしょう。
繰下げ受給をする
老齢年金は65歳から受け取らずに、最長75歳まで繰下げできます。繰下げ受給では先延ばしにした期間に応じて年金額が増え、増えた年金を一生涯受け取れます。65歳から受け取る年金額に対して増額される割合は、繰下げた月数1カ月あたり0.7%です。70歳まで繰下げると42%、75歳まで繰下げると84%の増額となります。
まとめ
老齢基礎年金は、480カ月保険料を納めれば誰でも満額を受け取れます。それに対し、老齢厚生年金は報酬が高くて加入期間が長い人の年金額が多くなりますが、最高額の年金を受け取ったとしても月額で30万円台です。多くの人は、年金だけで老後の生活をまかなうのは難しいと考えられます。早めに老後のための資金準備を始めましょう。
国内生保で法人コンサルティング営業を経て2007年に独立系FPとして開業。企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在は法人向けには確定拠出年金の導入コンサル、個人向けにはiDeCoやNISAでの資産運用や確定拠出年金を有効活用したライフプランニング、リタイアメントプランニングを行っている。